伊吹秀明 本人による著作解説

◆著作一覧ページ◆●文庫  ●ノベルス  ●ハードカバー  ●関連書籍 ●短篇・エッセイ・解説他 


●解説1 ●解説2 ●解説3

「スター・パニック」

1996年 ワニ・ノベルス(KKベストセラーズ) 表紙/中原レイ

「零式スター・パニック」

2000年 ファミ通文庫(エンターブレイン) 表紙/近藤敏信


零式表紙  初の架空戦記以外の小説。一応、スペース・オペラに分類されるらしい。
 アイドルによる一日地球防衛軍長官、というワンアイディアの作品です。それにくわえ「ブラックホール機雷敷設艦」や「AIたちの艦隊幕僚」という小ネタも「エンジェル・リンクス」以前にここで使っていたのでした。
 ファミ通文庫版(2000年9月発売)は、ヒロインの名だけではなく、後半部分のストーリーを大きく変えたものです。
 ちなみに「零式」というのは、旧作とはっきり区別するためにつけました。「零」は2000年に発表となったため。旧海軍の零式艦上戦闘機と同じ理由です。これによりワニ・ノベルス版は「九六式スター・パニック」と呼ばれます。奇しくも零戦の前は九六式艦上戦闘機が使われていたのでした。


「SFスナイパー」

1998年 アプリコット・ノベルス(ミリオン出版) 表紙/藤川純一


 これはアンソロジーです。
 コミケで「パラドックス」というSF同人誌を買ってくれたミリオン出版の方が「うちで傑作選を出しませんか」と誘ってくれたのでした。
 タイトルはもちろん、昔からよくSFとSMが間違われていたという話からのお遊びです。「SMスナイパー」はミリオン出版から出ていましたので、まさに絶好のチャンス。ちなみに同誌の版元はもう変わったそうですが。
 このアンソロジーには、拙作を2本載せてもらっています。「怪獣対策会議」は「SFマガジン」の書評で、「パンダにバックドロップを」は「ドラゴンマガジン」の編集長に誉められました。某T社の編集者にはまったく分からんとも……。
 収録作の中では日高トモキチ氏の「アンビストマの大迷宮」がお気に入りです。


「星方遊撃隊エンジェル・リンクス」 

富士見ファンタジア文庫 表紙/幡池裕行

「誕生編」1998年 口絵/西田亜沙子
「激闘編」1998年 口絵/西田亜沙子
「帰還編」1999年 口絵/井ノ本リカ子
「銀河爆闘編」1999年 口絵/井ノ本リカ子

コミック「星方天使エンジェルリンクス」
角川書店 原作/伊東岳彦・矢立肇 作画/井ノ本リカ子


エンジェル1表紙 エンジェル2表紙 エンジェル3表紙 エンジェル4表紙
エンジェルコミック表紙  部数的にも多く出ましたし、アニメにもなりましたのでこれで伊吹を知ったという人が一番多いと思います(ちなみにアニメ版とはかなり違いますので、未読の方はこちらにも手を伸ばしてみて下さい)。
 96年の春ごろ、伊東岳彦さんから「星方武侠アウトロースターのシェアドワールドをやりたいので、一枚噛んでみて下さい」という申し出があり、始めた企画。私もスペース・オペラはぜひ書きたかったので引き受けました。キャラやストーリーなど好き勝手にやらせてもらったので楽しかったです。
「ドラゴンマガジン」用に最初に書いたのは、「激闘編」の第一章に当たります。書き上げて送ったその深夜に「僕は、こういった小説が読みたかったんですよ!」と伊東さんから電話をもらい、ああ、やって良かったと思いましたね。
 まだ記憶も新しいので、このシリーズについて語りだせばキリがないんですが、「星方遊撃隊エンジェル・リンクス/エピソード0」という同人誌にいろいろと書いておきました。
 最後に「エピソード0」に書いていなかったアニメの声優さんについて。皆さん、キャラのイメージどおりで、良いキャスティングだったと思います。
 ゲスト声優も豪華で、2話の八代さん(「トムとジェリー」のトム! あと「いなかっぺ大将」の西一!)、4話の市川さん(「スーパージェッター」とシャーキンやプリンス・ハイネル)などは、長生きはするもんじゃ、と思いました。
 でも60万キロ離れた敵との激光(レーザー)砲撃戦で、着弾観測に四秒かかるというシーンは、アニメで見たかったですねぇ……。
 主役の柚木涼香さん。美鳳のように元気よく、そして感情を込めて泣いてくれました。……しかし、打ち上げのとき、二次会の会場に移動の途中、新宿の路上で「エンジェル・リンクス号、発進!」と叫ぶ貴女から、思わず早足になって逃げようとしたのは、私だけではありません。きっと。
注:同人誌「エピソード0」の通販は行っておりません
●「星方遊撃隊エンジェル・リンクス」についての追加・裏話(2002年1月記す)
 最初に書いたのは月刊「ドラゴンマガジン」連載用の原稿で、それは終了後に加筆され、「激闘編」(第二巻)として上梓されました。
 連載第一回目を書いた直後に、編集長から「エンジェル・リンクス結成時の話を書き下ろしでよろしく」といわれて書いたのが「誕生編」(結果的にこれがシリーズの第一巻)ですが、最初のタイトルは「星に願いを、天使に罠を」でした。長すぎて背表紙に収まりきらんという理由でボツに……。気に入っていたのに残念。
「激闘編」が出た1998年9月頃から、具体的にサンライズでアニメ化の打ち合わせがスタートします。タイトルも、「星方天使エンジェルリンクス」と微妙に変更。
 その作業過程の中、宇宙戦艦のブリッジ内は、人数を増やしたほうが絵のまとまりが良いということで、増員が計られます。で、そのときに監督によって付けられた追加クルーの仮名が、「オオタ」「シマ」「アイハラ」「ナンブ」……。作り手連中の世代が分かるというものですね(元ネタはヤ○ト。念のため)。
 その後は、具体的に各クルーの役割やらデザインが決まるにつれ、正式な名前が付けられていくわけですが、「アイハラ」だけがそのまま残ったのでした。
 ちなみにこのキャラは若い女性(ロリ系と称しても可)でして(CVも大野まりな嬢)、会議中もずっと「ちゃん」付けでした。それがいつの間にか、「エリザベス・アイハラ・チャン」になっていたという次第。


「出撃っ! 猫耳戦車隊」

2000年 ファミ通文庫 表紙/近藤敏信


表紙  この作品を書いて、自分の基本的な創作姿勢がはっきりと再認識できた。それは一見バカらしい設定やシチュエーションをまじめにやるということ。
 「氷山空母」「スター・パニック」も「猫耳戦車隊」も登場人物は自分たちのおかれた異常な事態(世界)にまじめに対峙しているのだ。
 フザけているだけでは何も残らないし、頭がカタければ先へ進めない。遊び心とシリアスさをどう組み合わせるかが鍵だ。
 試行錯誤やイレギュラー的な試みはあっても、たぶんこうした姿勢はしばらく変わることはないでしょう。
 ○別項「猫耳戦車隊 裏話」

●「出撃っ! 猫耳戦車隊」についての追加・裏話(2002年1月記す)
 昨年、近藤敏信さんの御協力を得て「第608戦車中隊設定記録」という薄いコピー本を作りました。そこに記したように猫耳少女や戦車についての設定は最初からあったのですが、大枠の世界観というのは「一度リセットされた世界」程度のつもりで、それほど深くは考えていませんでした。アドリブ的に書きながら設定を追加していったわけです。
 そうした中で、「一度放棄されたあと、再利用されている軌道塔」というのは魅力的な巨大ガジェットに思えてきて、第4話に登場させました。
 ひとつ前の第3話「眼上の敵」に強力な対空レーザーを出すときに、以前、青山智樹氏がレーザーの話をしていたことを思い出し、電話取材(青山氏は物理学科出身。SFサークルがらみで20年来の腐れ縁)。そのときついでに軌道塔のことを聞き、
「軌道塔の全高は六千キロメートル。静止軌道にも到達する高さだ」(P143)
 と、そのまま書いたわけですが……。
 その後、某作家クラブの集まりの先で「猫耳戦車隊の舞台は、じつは物理法則が違うのか、別の惑星の話なのでは」ということで話題になったとか。
 そう、静止軌道というのは三万六千キロメートルが正解なのです。三万が抜けている……。
 その集まりには青山氏も参加していて「あっ、それは僕のせいだ」と正直に話したところ、「おまえが悪いのか!」ということになり、袋叩きになったとかならないとか……。
 まあ、聞いたまま確認もせずに書いてしまった私が悪いわけですが(部屋の中を掘り起こせば資料くらいはあったのに)、いくらなんでも物理学科を出て、教師までやっていた人物がウソを教えるとは思ってもいませんでしたので。


「猫耳戦車隊、西へ」

2001年 ファミ通文庫 表紙/近藤敏信


表紙  意味のない裸? 何をいうかぁ、温泉に入るときは裸になるもんじゃー(P99)。
 えー、ほとんどの方はお分かりのような気がしますが、念のため。
 略称「N戦車隊」は、「独立愚連隊」よりもウルトラセブンの「ウルトラ警備隊西へ」(U警備隊西へ)をイメージしています。
 前後編に分けたり、やたらとペダンチックなキャラが出てきたり、四つに分かれるスーパーウェポンが登場したり……。まあ、ストーリー的にはいっさい関係ないので、ただの隠し味ですけどね。
 ○別項「猫耳戦車隊、西へ 裏話」


「第二次宇宙戦争 −マルス1938−」

2000年 ワニの本/KKベストセラ−ズ 表紙/高荷義之


表紙  メモによれば、H・キャントリルの「火星からの侵入」を買ったのは1988年のこと。オーソン・ウェルズのラジオ・パニック事件を分析したパニック社会学の古典的著作(原書は1940年刊行)です。面白そうだな、と手にとったこの本は94年にエッセイ(「宇宙戦争をシミュレートした帝国」/ワニ文庫『魔獣の銃弾』)を書いたときのネタになり、今回もまた本作を書いたときの助けになったわけです。だから本はなかなか捨てられない。
 あとがきにも書いたように、最初の依頼は宇宙戦争物(あるいはスペオペ)であり、そこから「宇宙戦争」の続編へと発想がシフトした。H・G・ウェルズの作品のラストシーン――火星人は死んだが、三脚兵器は残っているという図式が大変魅力的に思えたのがきっかけだった。パロディや後日談は山のように書かれているが、誰もそこには着目していないのではないか。
 SFの読者ではなくとも、ふつうに本を読む人ならば(たとえ実物は読んでいなくても知識として)「宇宙戦争」のラストシーンは知っている。そこを起点にして20世紀前半の歴史的なネタを織り込んでいった。作者本人としては、スピットヘッドの「地球連合艦隊」が気に入っている。
 ベテランのSF読みの方々からお褒めの言葉をいただいたのも嬉しい出来事だった。今後、改稿する機会があれば幕間の話を膨らますつもりです。
 ○別項「第二次宇宙戦争 裏話」


「マーズ・アタックガール!」

2002年 富士見ファンタジア文庫 表紙/珠梨やすゆき


表紙  宇宙を舞台にした作品を、広範囲の読者に向けて書くのは難しい。担当の(た)さんのように「フォボスって何ですか?」という人も多いのが現実。関心のある人とない人のギャップが大きすぎるのがネックですね。
 では、関心があればOKか、というとそうでもないらしい。
 私の場合、たとえばロケットの打ち上げとか、技術者の話を聞くという集まりがあっても、万難を排して参加しようとは思わないんですね(関心がゼロというわけではなく、あくまで程度の問題)。
 結局のところ、現実のロケット(政治と経済環境を含む)では、写真を観てワクワクする何万光年先の恒星群や何千万光年先の銀河団はおろか、火星にすら人間は行けないじゃないか、という点が不満なんですね。
 だから、「マーズ・アタックガール!」は、そういう人間が書いた、文系的アプローチの火星SFです。神話、占星術、SFなどのフィクション、そうした火星に対する人間の想いそのものがテーマ。
 イメージを膨らませる媒体として、タイミングよく読んだ「地上星座学への招待」という本を使わせてもらいました(あとがきを参照)。私はこれを宮沢賢治的なファンタジー思想として読んだのだけど、それを非科学的なトンデモ本の一言で片づけ、小馬鹿にする人たちもいるらしい。溝は深い。
 まあ、テーマばかりが前に出ているのは、良いものではありません。「一富士、二鷹、三なすび」の三姉妹は気に入っているし、好きな要素は他にもある。今後はスペースオペラとして、ますますエスカレーションさせていきたいものです。
 ○別項「マーズ・アタックガール! 裏話」


管理者へのメール

unicorn@pureweb.jp