▲手紙索引■1月の手紙 1■1月の手紙 2■1月の手紙 3■1月の手紙 4■1月の手紙 5▼最新の手紙
「或ル作家ノ告白。ワイルドカードについて」
発売から四カ月が経過し、書店から姿を消しかけている「第二次宇宙戦争」(ワニ・ノベルス)ですが、漫画家の山本貴嗣さん、AICのプロデューサー井上博明さんなどからお誉めの言葉をいただきました。昨年末の某イベント会場で架空戦記コンベンションのスタッフの方からいただいた「覆面座談会」にも好意的な声あり。SFと架空戦記の融合を計った試み(ホントか?)は、とりあえずうまくいったようです。
さて、SFとミリタリーという接点から、告白はここからが本番。
93年に「Bクラブ」で本の紹介を3回だけやったことがあります(すぐに山岸真氏にバトンタッチ)。その最後がG・R・R・マーティーン他のシェアワールド「ワイルドカード」の第2巻「宇宙生命体襲来」(創元SF文庫)。これは出版直前だったのでゲラの段階で読んだのですが、その中でどうしても看過できないところを一箇所発見。
怪獣の群れのような宇宙生命体と戦う米軍。その中の戦艦ニュージャージーが18インチ砲を発射しているのです!
もちろん、現実のニュージャージーが搭載している主砲口径は16インチです。「数字が2つ違えば、この手のものが好きな人たちにとっては何億光年以上の差がありますよ」と編集氏に伝え、翻訳版では16インチ砲となりました。
しかし、「ワイルドカード」はいわずと知れた改変世界物。こちらの世界ではアイオワ級戦艦は大和級と同じ18インチ砲を搭載しているかもしれないのです。そこでゲラはもちろん、1巻目も再度目を通してみましたが、そのように設定したという記述は見つかりませんでした。
そのまま18インチ砲で本を出してしまえば、間違いを指摘するハガキや電話が創元に殺到(推定180本)したことは確実だったでしょうが、いまもって16インチ砲に直したことが正しかったことなのか、少し心に残っている次第です。
2001年1月4日記す。(Einhorn註:諸般の事情により、記述の日付とアップ日付には時差が生じております)
2001.1.29 ◇to page top
徳間デュアル文庫の近刊予定の中に
徳間デュアル文庫の近刊予定の中に石原藤夫の「ハイウェイ惑星」が入っていることを知ってビックリ。こうなれば堀晃の「太陽風交点」もぜひ出して欲しいものです。この路線ならば、それも時間の問題でしょう。
一昨年のハルキ文庫、昨年のデュアル文庫とSFのリバイバルが続いています。そういえばソノラマ文庫からは「クラッシャージョウ」が新装版で出ていましたな。
SFの出版点数が日本よりもずっと多いアメリカでは、じつは3割から4割が再刊で占められていると聞いたのは、もう10年も前のこと。日本もそれに近い状態になってきたということでしょうか。
日本SFもいいですが、絶版になっている海外SFもまた復刊して欲しいもの。「一角獣・多角獣」や「ドノヴァンの脳髄」、むかし講談社から出ていた「ヒューゴー・ウィナーズ」のシリーズとか。こーゆう話はキリがないのでこの辺で。とりあえずは河出文庫から刊行中のアンソロジーの今後を期待しています(難をいえば表紙。あの表紙のために買っていない知人が何人もいたりする……)。
2001.1.23 ◇to page top
近況です。
21世紀の初仕事として、「仮称第101号改1作品」に着手しました。
久々にこの言い方が出てきましたね。かつて「猫耳戦車隊」が「仮称103号作品」と呼ばれていたことを記憶している方もいることでしょう。
そう、これは私が変わったことを企んでいるときに使う手です。タイトルからジャンルや内容がバレないようにしているわけ。いったい何が出てくるか、しばしお待ち下さい。
101号作品ということから分かるように、「猫耳」以前に提出されていたネタです。版元の事情から延びていたものが、修正されて(改となって)リスタートした次第。
それはさておき。自分の場合、わりとタイトルと内容がストレートにつながっている作品が多いようですね。
試しに拙作のタイトルを並べてみましょう。
「氷山空母を撃沈せよ!」「邀撃マリアナ海戦」「帝国大海戦」「(零式)スターパニック」「シャーロック・ホームズの決闘」「星方遊撃隊エンジェル・リンクス」「出撃っ! 猫耳戦車隊」「第二次宇宙戦争」「パンダにバックドロップを」「怪獣対策会議」
やはりそうだ。わかりやすさを第一に考えているからですが、たまには少し捻ったものも付けてみたいものです。果たして「仮称第101号改1作品」にはどんなタイトルが付くことでしょうか。
どんなタイトルが付けられていようが、どうせ伊吹秀明の書くものは巨乳、猫耳、戦艦(もしくは戦車)だろうって? くそっ。まだメガネっ娘が残ってるわい。「メガネっ娘、宇宙へいく」……ウソです。
1月15日記す。
2001.1.16 ◇to page top
「歴史群像の戦記ドキュメンタリーについて」
歴史雑誌というものは、いまどれくらい出ているのだろう? 新人物往来社「歴史読本」、秋田書店の「歴史と旅」、そして学研の「歴史群像」……。
「歴史群像」という雑誌は、以前は月刊誌で縄文時代や江戸時代など幅広くやっていたのですが、季刊誌(現在は隔月刊化)となってからはアンケートで人気の高い戦国時代や第二次大戦などの戦史専門に特化し、売り上げを伸ばしたそうです(他にムックも大量に出版しています)。
さて、現在発売中の「歴史群像」45号(冬・春号)に「サン・ナゼール奇襲作戦」という50枚ほどの原稿を載せてもらっています。
英軍の特殊部隊が、オンボロ駆逐艦に爆薬を詰めこみ、ドイツ軍の支配するドックに突撃させるという豪快な実話です。関心のある方は、ぜひご覧あれ。
同誌にノンフィクションの原稿を書くのは、これで5回目。デビュー間もないころに書いた最初の「マレー沖海戦」はおそらく試験的な依頼だったと思いますが、その後、4年の間隔が空いての「ミンドロ島沖海戦」あたりからは事情が変わってきます(時期については仕事リストを御参照下さい)。
依頼の弁は「歴史研究家や学者先生の文は硬いのが多いので、雑誌のバランスをとるために『読み物』としての原稿が欲しい」「基本的な事実さえ押さえておけば、セリフなどは多少創作してもよい」というもの。
このとき、私の頭に浮かんだのは、昔よく読んだ戦史研究家の木俣滋郎氏の著作だったりします。
編集部(なんと発行人自ら)から最初に提案されたのは伊号19潜によるワスプ撃沈の話でしたが、私は前から考えていた「ミンドロ島沖海戦」のほうを書かせてもらいました。
結果、読者アンケートの評判は大変良かったそうです。さもありなん。まず、この海戦自体があまり知られていないため新鮮なこと、日本海軍最後の艦砲射撃が一応成功していること、そして指揮官の木村昌福少将の人柄の魅力……。
で、次には依頼どおりに書いた「マリアナ沖海戦」。これはアンケートの結果を聞いていないのですが、それほど良くはなかったと想像できます。何しろ、日本軍のいいところはひとつもない大惨敗の海戦。以前聞いた話によると、日本軍の負け戦の記事は全体的にアンケート結果は良くないそうです。
架空戦記小説同様、やはり日本軍が勝つ話のほうが反応がいいようです。私は「うまくいかなかったところ」から教訓を学ぶのが、歴史を学ぶ意味だと思っているのですが。
次はガラリと趣向を変えて「ビスマルクを撃沈せよ」と「サン・ナゼール奇襲作戦」。大艦隊を動員しての大捕物と、特殊部隊の隠密作戦。対照的な内容ですが、ストーリー的にはつながっているところがミソです。
この先はたして書くことがあるのかは未定ですが、日独どちらとも不発に終わった北洋の海戦二題「アッツ島沖海戦」と「バレンツ海海戦」を比較して取り上げてみたいと思うものの、地味すぎてやはり駄目でしょうね。
2001.1.15 ◇to page top
「正月の近況と解説計画について」
2001年のスタート、記念に自らを演出して過ごした方も多かったことでしょう。
私は北海道の田舎に帰り、冷たい星空の下でガタガタ震えながら新世紀を迎えました。かなり風が強かったです。10分もしないうちに頭の芯が痛くなってくる始末。今年は雪が多い。5日の朝にはマイナス18度を記録。
というわけで正月は雪かきと読書の日々でした。
読んだ本は、2001年にふさわしくA・C・クラークなんてことはなく、他のSFでもなく、「つん読」の山脈の中から10年ほど前に買っていた鮎川哲也の「りら荘事件」とコリン・デクスターの「ウッドストック行最終バス」と矢作俊彦の「リンゴォ・キッドの休日」でした。東西の本格ミステリ(パズラー)とハードボイルド。
3冊とも作品だけではなく、解説が充実している点が良かった。そうそう、昨年、「ヤングアダルト小説に解説をつけよう」と少し書きましたね。
自分の場合、SF、ファンタジー、ミステリの知識の大半は、本の「解説」から得ています。何百、何千と読んでいくうちに、自然とジャンルのマップのようなものを作り上げていく。これは多くの人も一緒でしょう。
しかし、困ったことに現在、出版されている「ヤングアダルト小説」には解説がついていない。あっても極々少数の例外だけ。マップ不在。
これではよく本を読む若い読者でも、点から点へ飛ぶだけで、線や面、ましてや深さにはつながらないのではないかと思うわけです。
単純に、自分の読書量が減っている分、もっと付加情報が欲しいという個人的な事情もありますが……。
そんなわけで、各社の担当編集者に「解説をつけて」と直訴しています。現場レベルでは好感触ですが、コストがかかるために前途は多難。すべての本に解説を、というつもりはありませんので、ぜひ何割かでも検討していただきたいところ。
あと、解説を書ける人が少ないという点もネックですね。私としては昔からのSFジュヴナイル(文芸)の延長的な見方ではなく、他のメディアにも通じた新しいライターに登場して欲しいと思っています。
(「SFマガジン」2月号の21世紀のSFキィパーソンはその意味でちょっと良かったかも)
追伸。岡本賢一氏のサイトに、伊吹秀明インタビューがそろそろ流されるころです。興味がある方は、ぜひご覧ください。
2001.1.11 ◇to page top
管理者へのメール
einhorn@excite.co.jp