I氏の手紙

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シリーズ「意外交友録」その3

 さて、第3弾は漫画家の山本貴嗣さんです。キャリアはもう20年を越えている方で、私としては一読者でいた時間のほうがずっと長い。
「最終教師」「超人日記」「エルフ17」などを読んでいました。初期はコメディ路線が多かったと思いますが、その一言では語れないものがアリ。たとえば「エルフ17」では飛行性能を持ったパワードスーツが登場するのですが、あり来たりの飛行ポーズではなく(アトム、ウルトラマン、スーパーマン……みんなやっているやつ)、独自の理にかなった姿勢を考案したりといったこだわり。
 山本さんは80年代後半には、シリアスな作品にも着手。とくに目を引いたのが中国武術を題材とした「セイバーキャッツ」。キャラもストーリーも素晴らしく、随所に見られる興味深いウンチクと相対化する視点が非常にマッチしていた。
 当時私は、同人誌で「SF格闘」特集という号を編集していて、「セイバーキャッツ」は絶対に取り上げようと決意。で、カット引用の許諾をもらうため、出版社に手紙を書いたのです。無事に許可がおり、できた本も3冊送ったのですが……。
 ところが1カ月以上経過したころ、やはり同特集に寄稿していただいた翻訳家の中村融氏から電話が。(そのとき初めて知ったのですが、氏は山本貴嗣さんの大学の後輩だったのです)
「『SF格闘』特集のことを山本さんに話したら、ぜひ読みたいというんだけど」
「えっ?」
 なんということか。出版社に送った本は作者本人には届いていなかったのです。じつは山本さん以外の人たちにも(出版社は別)届いていないことがあとで判明。教訓。版元に本を送っても作家に本は届かない。
 さっそく聞いた御住所に本をお送りしたところ、御本人から電話をいただき、それがきっかけで以後、いろいろと興味深いお話を聞かせてもらっています。
 その中のひとつ。80年代後半、当時バンダイが出していた「サイバーコミック」から「謎の円盤UFO」の漫画化の依頼があったそうです。山本さんは「UFO」の大ファンだったそうですが、思い入れがあまりにも強すぎる故に断ってしまったとか……。でも、山本タッチで描くムーンベースのエリス中尉たちのキャットスーツ姿はぜひ見たかったですねぇ。
 さて、山本さんの特徴のひとつにリアリズムへのこだわりがありますね。
「マンガの絵は記号という人もいますけど、ぼくはリアルな絵が好きなんですよ」というのは御本人の弁ですが、それは絵に限らず、武道やアクション、その他いろいろな分野におよびます。
 自分では絵を描かなくとも、アクション(剣や銃器を含む)に関心のある人はぜひ、
「本気のマンガ術 山本貴嗣の謹画信念」 美術出版社 1400円+税
 を読むと良いでしょう。きっと役に立ちます。
 自分の場合ですか? うーん、どうでしょう。
 作品(あるいはシーン)によって、リアリズム、リアリティ、あえてそれらを無視するの三つを使いわけているといったところでしょうか(無知や怠惰のために失敗することも多々ありますが)。
 たとえば、テレビの時代劇のチャンバラもリアルな斬り合いも、両方あってかまわないということ。いずれにしろ、剣で斬り合うということはどういうことなのか、きちんと想像力を働かせる必要があります(凄まじい光景ですぜ)。
 どちらにしろ、書く(描く)方も読む方も、こだわりのあるところは厳しくなる傾向にあると思います。
 私はまず書きたいものがあって、それを実現するために理屈を考えるタイプですね。
(ちなみに、その昔「スターログ」に高橋留美子が書いていた「SFは半裸のねーちゃんだ」というのは真理だと思ってます。全裸じゃないところがポイント。だから古いスペオペに出てくる半裸同然の宇宙服姿のおねーちゃんとか、ヒロイック・ファンタジーに出てくる半裸の女戦士というのはOKです。もちろん、それがすべてではありませんが)
 リアリズムという点で最後にもう一点。山本さん、漫画家によくいる自分を二枚目に描く自画像がキライといって、御自分のは相当メチャクチャ描いていますけど、あれはウソです。本当は精悍な感じの二枚目ということをここでバラしておきましょう。

 さて、このシリーズはここでいったん打ち切ります。ネタが貯まればまた再開しますので。
 最後に。これまで取り上げた加藤龍勇、岡本賢一、山本貴嗣の三氏にひとつ共通点を発見しました。皆さん、大変な猫好きということです。やはり類は友を呼ぶということでしょうか(もっとも、それ以外の共通点はないかも)。

(2001.4.15記す)
2001.5.25 ◇to page top


西川魯介(にしかわ・ろすけ)について

 1月に石森章太郎についての思い出話を書いたとき、最近読んでいる漫画家として西川魯介の名前を挙げた。今回はその紹介です。
 最初に接したのは「ヤングアニマル増刊」に連載していた「SF/フェチ・スナッチャー」という連作シリーズ。地球に潜入した下着や上履き型宇宙人を狩るためにやってきたメガネ型宇宙刑事が女子高生にとりついて、もうやりたい放題というもの(笑)。
 ハル・クレメントの「20億の針」を下敷きにしたパロディというだけでは収まらない、いろいろとマニアックなオプションがついている快作です(私的に)。
 単行本にまとめられたのが、2000年の9月末。表題作以外にも、「少年キャプテン」に発表されたユニークな短篇を掲載していますのでお薦めです(「変な生き物シリーズ」も良いですぞ)。
 一読して気づくのが、主人公のほとんどがメガネっ娘ということ。
 ピンときた私は、昨年、星雲賞を受賞した野尻抱介氏にプレゼントとして贈りました。氏はメガネっ娘が好きという風の噂を耳にしていたのです(「猫耳戦車隊」をあちこちに宣伝していただきましたし)。
 すると思ったとおり「ストライクど真ん中!」という好反応。しかも、あとに発売された「SFマガジン」を読むと、「コンタクト・ジャパン」というSFイベントで来日したR・J・ソウヤーにも「メガネっ娘女子高生型エイリアン」を提案(?)している始末。恐るべし、星雲賞作家。
 さて、今年の3月末、めでたく「SF/フェチ・スナッチャー」の第2巻が発売された際、感想やら上記のエピソードを紹介したものを版元気付けで送ったところ、な、なんと、西川魯介氏からカラーイラスト入りのハガキが返ってきたではありませんか!
「猫耳und眼鏡」しかも巨乳! ブンダバー!
 ひとりで悦楽に浸るのも勿体ないので、サイトで公表して良いものかお尋ねしたところ、今度は「眼鏡und巨乳」しかも手があんなところに……ハラショー!
 というわけで二枚ともここで御紹介するものなり。註:下の画像をクリックで原寸大で表示します

 最近はエロマンガがメインとおっしゃる魯介氏ですが、相変わらずミリタリー、SF、オカルティズム、民俗学、その他さまざまな要素が溶けこみ、独自な世界を作り上げております。要注目なのはいうまでもありません。

 では最後に、現在までに発売されている単行本を紹介してみましょう。
「SF/フェチ・スナッチャー」 白泉社 581円+税
「SF/フェチ・スナッチャー2」 白泉社 581円+税
「昇天コマンド」 ワニマガジン社 505円+税
「初恋★電動ファイト」 ワニマガジン社 505円+税
「屈折リーベ」 白泉社 505円+税

 追伸。本サイトからリンクしている「黒書刊行会」では西川魯介作品に関する詳細な分析が存在するそうです。覗いてみてはいかがでしょう。

(2001.5.16記す)
2001.5.22 ◇to page top


もうひとつの戦記ブームについて

 架空戦記のブームが始まったころ、頭に浮かんだのが、昭和30年代にあった少年雑誌の戦記ブームのことです。
 といっても、これまたリアルタイムでは読んでいなくて、あとで「そんなことがあった」と知っていた程度だったのですが。
 いずれそのうち調べて比較研究してみようと思っていると、ひょんなことから資料になる本が手に入りました。
「少年マンガ大戦争」本間正夫 蒼馬社 1429円+税
 タイトルからして戦争です。
 といっても、もちろん漫画雑誌の戦争ですけどね。
 内容はかつて五大週刊少年誌のひとつだった「少年キング」とその兄貴的存在だった「少年画報」の編集長・金子一雄のもとで働いた著者が、その記録と記憶を残すべく記したもの。個人的感傷が濃厚なのは仕方ないですけど、記録としてこれは貴重です。
(余談ですが、キングで連載していた「サイボーグ009」を「ミュートス・サイボーグ編」で打ち切りにしたのも、金子の証言として載っています。「設定が複雑すぎて、登場人物が多すぎる。雑誌連載には不向き」。むむ、確かに理屈ではそのとおりなのだが……)。
 本書では戦記ブームのことにもページが割かれています。
 それによると、どうやら「少年画報」昭和36年9月号から連載された辻まさきの「0戦太郎」が火付け役らしい。
 これが少年たちに大ヒットして、たちまち月刊誌、週刊誌とも戦記漫画が流行するのです。
 その主なものを挙げると、
「大空のちかい」九里一平 少年サンデー
「ゼロ戦レッド」貝塚ひろし 冒険王
「空の3軍曹」わちさんぺい 少年
「燃えろ南十字星」松本あきら(のちの零士) 日の丸
「紫電改のタカ」ちばてつや 少年マガジン
「ゼロ戦bP」一峰大二 まんが王
 その他、短期連載、読み切りは数知れず。
(趣は違うが、吉田竜夫の「少年忍者部隊月光」(少年キング)も戦時中の陸軍中野学校で訓練を受けたという設定だった)
 辻なおきは、38年に創刊された「少年キング」にも「0戦はやと」を連載を開始。その扉ページにある「大ひょうばん!! 日本一の0戦まんが!!」の惹句が燃える。0戦まんがというジャンルができるというのも凄いけど。
 これらの中で、いま入手できるのは、「紫電改のタカ」(集英社・ちばてつや全集)くらいでしょうか。これはラストシーンを無理に劇的にせず、淡々とした終わり方がよけいに泣けますね。
 あと、上記リストにはありませんが、貝塚ひろしの「烈風」も学研の歴史群像コミックスから復刻されています。
 さて、雑誌という媒体は、漫画だけではありません。
 まずは表紙。創刊号から「少年キング」の表紙を描いたのは、当時、プラモデルの箱絵で戦艦や戦闘機をそろそろ描き始めていた高荷義之(拙作「第二次宇宙戦争」のカバーも描いていただいた)。表紙も口絵も、戦車、戦闘機、軍艦、兵士がこれでもか、というくらい登場したという。
 さらに組み立て付録や別冊付録もてんこ盛り。
 金子の証言。「(前略)何しろ当時の子どもは0戦や連合艦隊にもの凄くくわしくて、大人の方がかないませんでしたからね。間違った図解など載せたらすぐに指摘されるという感じでした。0戦と大和には信仰的なものを持っていましたね」(「少年マンガ大戦争」135ページより引用)
 なるほど。戦時中、大和級戦艦は最高機密だったから、一般国民はその存在を知らなかった。少年たちのあいだで知名度が一気に上がったのは、このころなのかもしれない。
 同時に「大和神話」や「0戦神話」がつくられ、「日本は質では勝っていた。米軍の物量に負けたんだ」という幻想も作られていったのでしょう。そういう論調の読み物は、けっこう長いあいだ出てましたし……。いまもあるのか(個々のいくつかの技術が優れていたとしても、質で勝っていたとはとてもいえないでしょう)。
 じつは、この昔の戦記ブーム、学研の「歴史群像」の本誌かムックで取り上げてみませんか、と何気なく持ちかけているのですが、ものが漫画だと畑違いの気もするし(版権関係で大変だし)、どうなることでしょうか。

(2001.4.15記す)
2001.5.17 ◇to page top


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