本文書は、伊吹秀明著『出撃っ! 猫耳戦車隊』『猫耳戦車隊、西へ』(ともにエンターブレイン/ファミ通文庫)を読了した人向けに書かれています。未読の方はネタばらしをすることになるので御注意下さい。
以下の文書の原型は、2000年2月から3月にかけて、担当編集者とイラストレーター氏(これを執筆時、まだ誰になるかは未定だった)に世界観を伝えるために制作されたものです。
その後、2001年夏、『第六〇八戦車中隊設定記録』(コピー本)を発行するときに加筆、そして2002年春、『On the Catwalk』に収録するときも加筆がされました。
【世界観】
遠い未来。何らかの天変地異もしくは大戦争によってリセットされた世界。
人類は衛星軌道上の都市と地上にわずかながら残されている(国家というよりは連合都市群を構成している)。
主人公たちは謎の敵ヴォータンと戦争状態にある。ヴォータンの正体は明かされない。最初のうちは、人間同士の戦いのように思われている。
ヴォータンは異変前に人間が作りだしたもの。「人類を継ぐもの」として増殖中。その名はヴァーグナーの「ニーベルゲンの指輪」から。
【猫耳とは】
ネコゲノム計画によって作りだされた亜人類。Aaヘテロ接合体。ドラマに登場するのは、基本的(ビジュアル的)に女の子のみである。
これもまた「人類を継ぐもの」であることが明らかになる。
要は人類を継ぐのは「機械生命」か「猫耳少女」か、という怖ろしい(究極の)選択の物語なのである(このくらい極端な話のほうがインパクトがあって良いのです)。
【猫耳戦車隊とは】
猫耳少女たちを隊員に編成された第六〇八戦車中隊を指す。他にもあるらしい。
配備されているのは、火力、防御力に優れた高性能戦車なのだが、唯一の欠点は昔のソ連戦車のような窮屈さ。よって、体が柔らかいおチビちゃん(全員150センチ前後)の猫耳少女たちが隊員ということに。
一冊目は夏発売ということもあり、半袖、半ズボンという出で立ち。
【戦車の設定】
大異変によって技術の大半は失われている。部分的に復元されたりして、かなりチグハグな状況にある。ハイテクは次の二点。
●小型高出力の対空レーザー。飛行機にでかい顔をさせないため。ただし、悪天候時の威力はかなり落ちる。天候の変化もストーリーに盛りこむ。
●自動装填装置。装填手はいないので、戦車の乗員は三名。キャラを絞りこむため。
●あとはなるべく第二次大戦レベル。ただし、特殊な砲弾は登場させるかも。
(執筆直前、友人のアドバイスもあって主砲口径は大戦レベルよりも大きくなった)
【主人公たちの乗る戦車について】
名前はまだ未定。対戦車戦を主任務とする襲撃砲戦車。
サイズ的には中戦車だが、乗員スペースを犠牲にしている分、強力なエンジンを積み、装甲も厚い。主砲も105ミリ砲と強力。
戦闘重量34トン 全長7.8メートル 全幅2.9メートル 全高2.5メートル 乗員3名 最大装甲厚98ミリ(傾斜装甲) 最大速度時速57キロ
(この戦車は、のちにウィスカー(猫のヒゲ)と命名された)
【編成】
指揮小隊 中戦車1(指揮車、コード名クラム1)
軽戦車とハーフトラック4〜5
第1小隊 中戦車三(コード名ヘリング1〜3)
第2小隊 中戦車三(同サーディン1〜3)
第3小隊 中戦車三(同コッド1〜3)
補給用トラック 数台(整備班)
必要に応じて歩兵連隊や大隊に配属されたり、あるいは協力する。
慢性的な車輌不足で、つねに定数に満たない。トラック不足のため、移動時には戦車にちゃぶ台などの所帯道具をくくりつけたりしている。生活感も出せるのでよし。
【ストーリー構成】
連作短篇集とする。
各タイトルは映画のもじりで統一。
●第1話「猫が戦車でやってきた」
導入部。読者視点キャラがやってきて、猫耳戦車隊とは何か、ということをキャラ紹介を交えて展開する。
●第2話「鬼畜戦車T34」
ここで敵にスポットを当てる。強敵「鬼畜戦車」退治を命じられる猫耳戦車隊。なんとかやっつけるが、その残骸は何者かによって回収されてしまう。上層部が敵の正体を隠そうとしていることで、謎の部分を提示。
(のちにT34/35となる。T34じゃそのまんまだし、相手を多砲塔戦車としたので、合わせ技ということで)
●第3話「眼上の敵」
悪天候下での敵ガンシップとの戦い。雨の中では対空レーザーの力が落ちている。
●第4話 「誓いの休暇」と「五人の札つき娘」(どちらかではなく、これがタイトル)
大作戦を前に休暇がとれることになる。主人公は軌道都市に戻るが、そこに猫耳娘たちもついてくる。ほのぼのとした話だが、最後にこの世界のシビアな状況(人類に明日はない)が明らかにされる。
●第5話「私情最大の作戦」前後編(他よりも長め)
ヴォータン基地相手の大がかりな作戦を描く。同時にキャラ間の個人的な葛藤なども入れてドラマ性を高めたし(第4話で伏線が入る)。
(第3話はあっさりと書かれているが、執筆中に構想がふくらみ、ここで重要な伏線が入ることになった)
【キャラクター】
名前がついたのは一番最後。身長やらスリーサイズが先に決まっていた。
●主役
猫耳中隊の第一小隊長。
自尊心の強い、アクティブな性格。(間違っても、人間に向かって「御主人様」などとはいわないタイプ)
「猫にチームワークを求めるほうが間違っているんだ」
新しく入ってきたキャラがわりと巨乳なので、それをネタにいろいろとからむ。
「ただでさえ狭い戦車の中なのに……」
「うりゃ、88センチ対戦車砲を出さんかい」「た、単位が違います。いや、それ以前に」
目のかたち。ウォルナット(クルミのように丸みのある形)。髪は栗色のロング。
リンクス・ティップ 耳の先の毛の色が濃い。
身長152 83 54 85
(ミント・アデルと命名。珍しく初期設定からあまり崩れなかったキャラ)
●読者視点キャラ
このキャラの視点から、世界設定やら猫耳戦車隊とは何ぞや、というのが徐々に判明していく。
最初は1号車の臨時砲手。のちに中隊長付きとなって俯瞰的に見られる位置につき、ラストにまた1号車に乗ることに。
最初は少年のつもりだったが、猫耳をつけるとなるとやはり女の子がよいだろうと思い直し、直前に変えられた。最後には、自分も人工的な存在であることがわかる。気まぐれでいうことを聞かない猫耳少女たちをコントロールする「またたび人間第1号」のしかも失敗作だったということが……。
身長158 88 57 87
(遊月栞里・ゆうづきしおりと命名。設定だけを見ればけっこう悲惨なポジションのはずなのだが、書いてみれば体面を保っていた良家のお嬢さんが段々くずれていくというか、正体をあらわしていくというか……。結局、中隊長付きにはなりませんでしたな)
●中隊長
猫耳戦車隊を束ねる巨乳の隊長。大尉。
おっとりした「まねき猫」を連想させる雰囲気のキャラだが、じつはかなりの美女で切れ者。兵力、補給能力、地勢を冷静に把握して決断していく。
しかし、変な一面もあり。飯の炊ける匂いを嗅ぐと恍惚としてしまう。
スコティッシュ・フォールド(丸い目と垂れ耳の猫)。
身長154 96 58 91
(ユキミ・ハーブリッツと命名。飯の炊ける匂いがとても好きというのは、映画「殺しの烙印」の宍戸錠からきています。書いていくうちに巨乳というよりは爆乳と表記されることが多くなった。見た目は癒し系で、私は好きですな、こーゆう人は)
(追伸。近藤敏信さんの個人誌「STRAY SHEEP Vol.7 猫耳戦車隊日記」(2001年冬コミ刊)の13ページには、「耳がたれているの」の「耳が」が大書きされている。そう、乳ではなく、耳です。じつはこれは本編を書いているときにも気になったこと。間違えてはいけません。あとで猫の本を読むと「折れ耳」ともいうらしい。こっちにすれば良かった)
●1号車の操縦手
おしゃべり。詮索好き。いろいろと主人公について聞きまくる(反対に主人公にとっては情報収集の役割を果たす)。運転中もしゃべるために、よく舌を噛む。
ドンキー・イヤー(耳のつき方が狭く、寄り添って伸びているためロバの耳に近い)
カッパーアイ。目の色はオレンジがかった銅色。
身長149 81 54 84
(ヴィヴィアン・ロークと命名。通称ヴィヴィ。書いてみれば、それほどおしゃべり好きでも詮索好きというわけでもなくなった。上官ミントたちの乱痴気騒ぎを達観して眺めているというか、飄々としているというか……)
●第2小隊の隊長
一見、ニヒルなキャラ。第一小隊とは共同作戦が多い。食料、物資をめぐる戦いあり。
オッド・アイド(両目の色が違う。青とオレンジがかった銅色)
身長153 86 57 87
(ウェンディ・ウェイド(ウェルドは誤植)と命名。野放図なミントと対照的ポジションのため、利口なお嬢様系となった。オッド・アイドはカラーで見るとけっこう強烈でしたね)
●整備班長
主人公同様、軌道都市から来ている人間。男。技術面のウンチク担当。
身長174
(ベルガードと命名。最初のメモはこんなもの。男はあっさりしていますな(笑)。途中からどうやらウェンディが想いを寄せているらしいということにしたが……結果は戦争同様よく分かりません)
●整備班/副班長
多数のナマズ(キャットフィッシュ)を基地で飼っている。ただのナマズではなく、敵の接近を知らせることができるらしい。
猫耳のメガネっ娘。ウォルナット(目のかたち。クルミのように丸みのある形)
身長152 89 56 88
(タマミと命名。ベルガードとのからみで、ウェンディが妄想の末にやきもきする展開もありなのでしょうが、戦闘を書くので手いっぱいで、なかなかそこまでは……。それはさておき。ふつうのメガネのテンプルでは、うまく猫耳にひっかけられません。きっとタマミのメガネは特注品なのでしょう)
最初のメモにあったのはここまで。( )内の部分はこの本のために加筆した部分です。ここからさらに少し追加して書いてみよう。
●猫耳戦車隊は若い女の子ばかりで構成されている
のちに2巻目『猫耳戦車隊、西へ』では、猫のオスはぐうたらで、メスは優れたハンターという説明がなされた。理にはかなってはいますが、作者の涙ぐましい悪あがきともいえます。
●第3小隊の隊長
一度に多くを登場させては読者が混乱するので、キャラクターは徐々に出そうと思った。第3小隊そのものは設定としてあったが、最初のメモではキャラは作っていなかった(だから近藤さんもキャラデザインをしていない)。
シルキー・マイハイムの初登場は「出撃っ!」全5話中の第4話となった。そのまま最初からいたことにして書くことも可能だったが、登場が遅れたのは「じつはとても目立たない、用心深いキャラだったから」とした。くわしくは本編をどうぞ。
●遊月玲南(れいな)と統合機構
やはり第4話で登場するのが遊月玲南。卓越した能力の持ち主であり、幼いうちに栞里や梨緒などのクローン体が作られた。また、二十代の若さで、統合機構の総裁の座にも就いている。
詳細は語られていないが、遊月一族は統合機構で大きな権力を持つ存在らしい。「大異変」や「ヴォータン」といった、人類にとっての一大事には、時間のかかる非効率的な民主的手続きは致命的となる。強権的な存在が必要な世界なのだ。
もちろん、その体制は危険な側面も合わせ持っている。「統合機構」というネーミングには、語感に不気味なイメージも込めている。
玲南個人は、栞里や梨緒のオリジナルというところから察することができるように、生臭い権力欲とは無縁の人物である。ただし、彼女のような人間が少数派というのが、この世界の問題なのだ。……だからクローンを作ったのか(?)。
【基地名・地名の元ネタ】
アヴァロン、ルービン、ホルステッド、ゴンザロ。じつは、とあるもので統一しています。それは猫の種類でも、SFでも、軍事用語でもない、とあるもの――アイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』というミステリーの連作シリーズの人物たちです。
これには何の必然性もなければ、確固たる隠れた信念(熱狂的な黒後家ファンとか)があるわけでもなし。……些細な理由があるといえばあるのですが、ここくらいしか書くところもないので書いてしまおう。
いまから20年くらい前に、「黒後家」がNHKでラジオドラマ化されまして、それをたまたまエアチェックしていたんですね。納谷悟郎、大塚周夫、野沢那智、中村正、久米明といった面子で、いまではギャラが高くて滅多にアニメでは使えないような方々がレギュラー(ゲストも千葉耕一、大木民夫、野田圭一と豪華)。それをMDにダビングして、「猫耳」の執筆期間、寝る前の時間に聴いていたのでした。さすがに芸達者ぞろいで、言葉のやり取りが心地よいのですよ。そんなわけで、個人的なタイミングというやつでキャラクター名を基地名などに使ってみた次第。
こんなこと誰も分かるまいと思っていたのですが(知り合いのアシモフファンですら気づかなかった)、「猫耳戦車隊用語事典」(神聖帝国発行のファンジン)にはその記述があってビックリしました。
でも、さすがにゲストキャラのバーンズ、シルヴァスタイン、ジャーヴィック、ダブンハイムも地名や基地名になっていることまでは、お気づきにならなかったようですね。
【カーリーの爆発後は?】
1巻目『出撃っ! 猫耳戦車隊』第五話「私情最大の作戦」では、カーリーと呼ばれる核爆弾らしきものが炸裂しています。
知人の何人かは猫耳娘たちは大丈夫なのかといってきましたし、前述の「事典」にもその懸念が記されていました。でも御安心あれ。244ページを読んで下さい。
「さっき届いた偵察機からの報告によると、高度一万メートルまでキノコ雲が上がっていたそうよ」
報告によると〜いたそうよ。これはあくまで間接的に聞いたことです。空模様が怪しいとはありますが、ミントや栞里たちはキノコ雲が見えるような距離にはいなかったし、爆発の閃光も見ていないのです。死の灰も浴びていない。
じゃあ、となりのページの挿絵はどうなのか? という声もあるでしょうが、そこはそれ、絵的にはああ描くしかなかったということで御納得して下さいな。
『猫耳戦車隊、西へ』について
『――西へ』(2001年1月発売)の執筆前には、とくに設定メモは作成されませんでした。以下は、本書のために書いたものです。
【ストーリー構成】
前巻同様、連作短篇集。最初は3〜4話を予定していたが、最初の「至極の黙示録」が思ったより長くなったので、実質的に2話になってしまった。
2話目は表題作の「猫耳戦車隊、西へ」。タイトルは映画をもじったものということは踏襲している。もちろん、これは「独立愚連隊西へ」から来ているのだが、やがて「ウルトラ警備隊西へ」に転化していった。話を前編、後編に分けてみたり、ペダン星人ならぬペダンチックなキャラクターや4つのパーツからなるスーパー・ウェポンが登場するのはそのためである。以上は隠し味的なお遊びで、ストーリーに一切関係はない。
【遊月梨緒(ゆうづきりお)と遊月家について】
そのペダンチックなキャラクターが、遊月梨緒である。ペダンチックとは衒学趣味ということで、ウンチク好きということ。否定的な意味で使われることもあるが、私は好きですな。全編、猫と巨乳、ついでに軍事史のウンチクが炸裂しております。
主人公、遊月栞里の姉で統合機構軍・特殊戦司令部付きの中佐。
遊月家は、統合機構の中枢といえる一族。若くして実権を握る遊月玲南(れいな)には、5人のクローン姉妹がいる。
玲南を長女とするなら、梨緒は三女、栞里は六女となる(1巻目では対性クローンを含む六人となっているが、2巻目ではこっそりと六姉妹に変えられている)。
クローン人間については、現実化の目処がついたことでいろいろと話題になっています。昔からよくいわれることに、ヒトラーやアインシュタインが何人も作れる、というのがありますね。私はこういったワンパターンの見方が嫌いです。双子だって人格は違うわけだし、人間は環境や教育でいくらでも変わるもの。
遊月姉妹は、各人見かけ以外は違うように書いています。もっとも、ちょっと変人ぞろいではありますが……。
【兵器/統合機構軍】
統合機構軍の戦車名は主に猫の体の部位、あるいは猫の種類から命名。
●ウィスカー
統合機構軍の主力中戦車。試作A型からE型まである。E型は猫耳亜人種専用で、乗れるのは身長158センチ以下とされている。
1巻で最強だったE型ウィスカーも、2巻ではその座を追われつつある。戦時中の技術進化の速度は、平時の比ではない(もっともこの「猫耳」の世界の技術は、どれだけ人間たちの遺産を入手できるかにかかっていて、一様ではない)。
なお、新作短篇「プライベート・ニャンニャン」ではウィスカー・シリーズの最終発展型Fタイプ(ウィスカー・ビズ)が登場する。
●ロング・ウィスカー
統合機構軍は、ウィスカーの車体に固定式の122ミリ砲を搭載した駆逐戦車ロング・ウィスカーを開発した。機動性は低下したが、その大火力はあらゆるヴォータンの戦車を撃破する。
ボイリング作戦時(円卓要塞ターフェル・ルンデ攻略戦)、第608中隊第1小隊にはロング・ウィスカー2輌が臨時編入されていた。
遊月梨緒は作中で、ウィスカーの後継車、猫耳仕様のモディファイド(強化型)が完成間近と発言しているが、本編では登場していない。
●パグ・ノーズ
偵察任務用、オープントップの軽戦車。整備が簡単なので前線では好評だった。快速を活かし、部隊の目として様ざまな局面で活躍。ただし、敵の主力が出てくると逃げるしかない。
●バーリング
ウィスカーの前の主力中戦車。90ミリ砲装備。火力と防御力はヘルモードと互角だが、機動力は劣る。数の上では、まだ統合機構軍の主力。1巻のジュエル・ハンマー作戦では多数の損害が出た。
●トータシェル
統合機構軍で初めて105ミリ砲を搭載した重戦車。機動力に欠け、これもボイリング作戦前にはすでに旧式化していた。
ウィスカーおよび猫耳亜人種の開発は、火力、防御力を落とさずに、いかに機動力を向上させるかに重点が置かれていた。
●超重列車砲レイナ
全備重量760トンの600ミリ砲。輸送時には4つのパーツに分けられ、使用時に組み立てられるスーパー・ウェポン。特製の貨物車3輌に架台と砲身が載せられ、組み立て用クレーンと動力供給専用ディーゼル車、専用弾薬車や対空レーザー車輌などが続く。ボイリング作戦に投入された。名前は、統合機構総裁の遊月玲南(レイナ)から。
●その他
支援車輌の出番も多かった。各種任務用のハーフトラック(半軌装車)、装輪装甲車、弾薬運搬車、戦車回収車、フィールド・キッチン(野戦炊事車)、輸送トラック……。戦車だけでは戦いはできないのです。お気に入りはハーフトラックで、「至極の黙示録」の中では活躍している。フィールド・キッチンももっと登場させたかったですね。
【兵器/ヴォータン】
兵器名は主にヴァーグナーの「ニーベルゲンの指輪」や北欧神話の神々から命名している。
●シグルド
偵察任務用の軽戦車。37ミリ砲搭載の前期型と50ミリ砲搭載の後期型(シグルドU)がある。パグ・ノーズとはいい勝負だが、猫耳戦車隊の敵ではない。
●ヘルモード
前半におけるヴォータンの主力戦車。90ミリ砲を搭載。バーリングに対しては優位に立っていたが、ウィスカーが登場すると押されることになる。ヴォータンは主砲を長砲身に換装してヘルモードの延命を計った。
●ヴァーリ
当初はコード名T−34/35と呼ばれた多砲塔戦車。別名は鬼畜戦車。いや……単に映画の「鬼戦車T−34」をもじっただけなのだが、どうやら鬼畜なこともやったらしい。しかも多砲身で(苦笑)。大昔では失敗作だった多砲塔戦車も、ヴォータンは戦力化に成功している。
●チュール
ターフェル・ルンデ攻防戦で、ヴォータンが初めて投入した空挺戦車。輸送機からパラシュートで降下させるため、軽量小型である。戦闘能力そのものは低いが、神出鬼没な運用が可能で、後方の輸送部隊にとっては死神のような存在となる。
●ヘイムダル
ヴォータンがウィスカーをコピーした新型戦車。無人のため、前面装甲はE型ウィスカーより厚く、105ミリ砲弾を弾き返す。やはりターフェル・ルンデ攻防戦で統合機構軍を苦しめた。
●ヴァルキュール
ヴォータンの汎用レシプロ双発機。バリエーションが多く、偵察から対地攻撃までをこなす。対空レーザーが発達している世界なので、晴天時の活動は制限される。嵐の中、ウィスカーとの死闘が何度か行われた。軍事作戦に気象観測は不可欠だが、その重要度は増すばかり。もっとも、猫が顔を洗ったり、耳の後ろをなでれば雨というのもOKな作品ではあります。
【ヴォータンの正体について】
人間が造った人工知性。元は危機におちいった人類が、資源調査、発掘、配分を委ねることに使っていたらしい。それがいつの間にか独り立ちして、こんなことを……。
人工知性といえば、SF界には「HAL9000」とか「ジャム」とか、いろいろと先達があるわけですが、「ヴォータン」はべつにテーマが先にあったわけじゃありません。
リアルな戦車戦を書きたい。しかし、リアルというのは戦車だけを書いていればいいわけじゃない。手が飛ぶ、足が飛ぶ、首が飛ぶのがホントの戦場。でも、それじゃ猫耳キャラで話をつくる意味がない。と、そんなこんなで、栞里たちがドカドカ撃っても、ヴォータンは血の流れない敵という設定になったわけです。
もっとも、敵はヴォータンだけじゃない、というのがシリーズの背景にはありますが。
【攻略法のあとがき】
もともと単なるメモ(「早わかり、猫耳戦車隊」というタイトル)に、あとで手をつけたものなので文体は統一されていません。読み苦しかった点は御容赦下さい。
こういったかたちになったもの以外にも、決めなくてはならなかったことが多くあります。「ネコミミ」「猫ミミ」「ネコ耳」「ねこみみ」「猫耳」……マンガでは「ネコミミ」という表記が多いような気がしますけど、どれにしましょうか、とか、尻尾はつけたほうが良いか否か、とか、いろいろと担当編集者に意見を聞いたりしています。
イラストの近藤敏信さんには、キャラ以外にも部隊マーク等いろいろとデザインしてもらったり、お世話になりました。
猫耳の女の子キャラというのは、日本だけではなく、いまや世界中に繁殖しまくっているようです。一方で、猫耳は「女の子のペット化妄想なのでけしからん」などというまじめな意見もあり、確かにそういった一面も的を射ているのかもしれません。
しかし、可愛いものは可愛い。そこまでは否定する気にはなれません。
また、猫的なものは外見だけではなく、内面も大事です。ここ数年、主役の男性に対して「御主人さまぁ」などと抜かす女性キャラが氾濫しているようです。あくまでひとりのキャラ作りというのならまだしも、どいつもこいつもではウンザリしてきます。
「猫耳戦車隊」では外見だけではなく、独立心に富み、あくまでマイペースという猫たちの性格も意識して書きました。そういった点が多少でも、作中で表現できていれば良いのですが。
追加。
2004年に書かれた短編「猫と軍艦」についてのメモ。
ヴォータンの新兵器
従来は北欧神話からネーミングしていたが、海から現れた敵ということで目先を変えてみました。今度はインド神話です。
●強襲揚陸艦クベーラ
一三〇ミリ砲二門。多連装ロケット・ランチャー一基。水陸両用戦車および偵察・弾着観測用のオートジャイロを搭載する。
●プシャパカ。
水陸両用戦車。武装と装甲は貧弱だが、対猫耳用障害物を敷設する(正体は読んでのお楽しみ)。
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